九州大学 大学院芸術工学研究院
細胞骨格の建築学と
生物自己構築の研究室
細胞の建築家“細胞骨格”を知り、目には見えないスケールの世界の技術を探求
私たちの研究室では、目には見えない細胞の内部世界の秘密を探究し、その中に潜む未開拓の技術を発見することに力を注いでいます。細胞内には、細胞骨格と呼ばれるタンパク質の繊維が網の目のように張り巡らされています。この細胞骨格は、バクテリアを含むすべての生物に存在し、細胞内での形や動きを創り出す、まさに細胞の建築家のような役割を担っています。細胞骨格は、状況に応じて形を変えることができ、このダイナミックな変化は自己組織化という技術によって実現されています。
自己組織化とは、簡単に言うと勝手に材料が集まり、プログラムされた材料間の相互作用に基づいて、特定の構造が出来上がるプロセスです。地球で生命が誕生してから35億年の長い歳月の中、細胞は、細胞骨格の自己組織化プロセスを自在に制御する術を獲得しています。しかし、私たち人類にとっては、まだ実用化されていない高度なテクノロジーです。
人間が細胞のように自己組織化を自由自在に使えるようになるには、細胞骨格がいかにして自己組織化するのか、そのメカニズムを解明する必要があります。私たちは、この生命の基本構成部品とも言える細胞骨格を理解し、将来的にはモノづくりの領域にも応用できるような新しい道を切り開きたいと考えています。
その研究方法として、当研究室では、生物から抽出した細胞骨格を対象に、生物学や化学、工学的な技術と組み合わせて、細胞骨格の自己組織化メカニズムの解明や、その制御法の確立に挑戦しています。
基盤技術
無細胞タンパク質合成系
細胞を使わずに、試験管内でタンパク質を簡単に合成、構造や機能を設計可能。細胞骨格の自己組織化を制御する、様々な分子ツールを開発。
DNAナノテクノロジー
DNAのプログラム可能な自己集合特性により、特定のナノサイズの構造体を設計したり、細胞骨格間の相互作用を精密制御可能
オプトジェネティクス
光感受性タンパク質を用いることにより、細胞骨格の自己組織化の光制御を目指す。
微細加工技術
半導体技術を応用し、細胞骨格を特定のパターンに配列したり、微細なデバイスを設計可能
人工細胞
リポソームと呼ばれる、細胞サイズの脂質カプセルの中に細胞骨格を閉じ込め、細胞のようにリポソームを変形可能。
動的細胞骨格の再構築
細胞骨格のダイナミックな特性を顕微鏡上で観察可能。細胞骨格の動的特性を定量評価。
細胞骨格の運動発現系
細胞骨格と相補的に結合するモータータンパク質を使い、細胞骨格を動かすことが可能。
利用可能な装置
蛍光顕微鏡 Nikon Ti2-E,
蛍光染色した試料を観察する顕微鏡。細胞骨格が動く様子を静止画と動画で撮影可能。
全反射型蛍光顕微鏡 (TIRF)
(Optline ReLIEF)
ガラスなどの基板表面の蛍光標識試料のみを高解像度観察。従来TIRFよりも均一な視野で観察できる特殊仕様。
SPM/AFM SPA300HV
タンパク質などの試料表面を非常に細い針でなぞることで、ナノメートルスケールの試料を超高解像観可能。
Formlabs Form3,
3D printer
レジンを硬化させるタイプの3Dプリンター。線幅0.025mmの高解像プリントが可能
分子バイオアートによる小さな世界の視覚化表現の探求
細胞や生体分子といった、目に見えない小さなスケールの世界を理解するのは簡単ではありません。そこで私たちは、最先端のVR技術やAI技術、イラスト・マンガ表現などを駆使して、この見えない世界を可視化し、より多くの人々が生命科学の美しさや奥深さに触れられるように努めています。私たちの研究は、科学とアートの融合を目指し、生命の不思議を探求する新しい窓を開くことで、科学の世界をもっと身近に、もっと親しみやすくできると期待されます。
Selected Papers
Surface Passivation of Norland Optical Adhesive Improves the Guiding Efficiency of Gliding Microtubules in Microfluidic Devices
Inoue, D.
In Vitro Synthesis and Design of Kinesin Biomolecular Motors by Cell-Free Protein Synthesis
Inoue, D.; Ohashi, K.; Takasuka, E. T.; Kakugo, A.
Design X Bioinformatics: a community-driven initiative to connect bioinformatics and designSommer, B.*; Inoue, D.; Baaden, M.
Monopolar flocking of microtubulesin collective motionAfroze, F.†; Inoue, D.†; Farhana, T. I.; Hiraiwa, T.; Akiyama, R.; Kabir A. M. R.; Sada, K.; Kakugo, A.*(†Contribution equal)Self-repair protects microtubules from destruction by molecular motors
Triclin S.†, Inoue D.†, Gaillard J., Htet Z. M., DeSantis M. E., Portran D., Derivery E., Aumeier C., Schaedel L., John K., Leterrier C., Reck-Peterson S. L., Blanchoin L.* & Théry M.* (†Contribution equal)
Mechanical stimulation‐induced orientation of gliding microtubules in confined microwells
Inoue, D.; Kabir, A. M. R.; Tokuraku, K.; Sada, K.; Kakugo, A.
Adaptation of patterns of motile filaments under dynamic boundary conditions
Inoue, D.; Gutmann, G.; Nitta, T.; Kabir, A. M. R.; Konagaya, A.; Tokuraku, K.; Sada, K.; Hess, H.; Kakugo, A.
Actin filaments regulate microtubule growth at the centrosome
Inoue, D. †; Obino, D.†; Farina, F.; Gaillard, J.; Guerin, C.; Blanchoin, L.*; Lennon-Duménil, A. M.*; Théry, M.*
Are microtubules tension sensors?
Hamant*, O.; Inoue, D.; Bouchez, D.; Dumais, J.; Mjolsness, E.
Construction of artificial cilia from microtubules and kinesins through a designed bottom-up approach
Sasaki, R.; Kabir, A. M. R.; Inoue, D.; Anan, S.; Kimura, A. P., Konagaya, A.; Sada, K. and Kakugo, A.*
DNA-assisted swarm control in a biomolecular motor system
Keya, J.; Suzuki, R.; Kabir, A. M. R.; Inoue, D.; Asanuma, H.; Sada, K.; Hess, H.*; Kuzuya, A.*; Kakugo, A.*
Depletion force induced collective motion of microtubules driven by kinesin
Inoue, D.; Mahemuti, B.; Kabir, A. M. R.; Farhana, T. I.; Tokuraku, K.; Sada, K.; Konagaya, A.; Kakugo, A.*
High-resolution imaging of a single gliding protofilament of tubulins by HS-AFM
Keya, J. J.†; Inoue, D.†; Suzuki, Y.; Kozai, T.; Ishikuro, D.; Kodera, N.; Uchihashi, T.; Kabir, A. M. R.; Endo, M.; Sada, K.; Kakugo, A.* (†Contribution equal)
Sensing surface mechanical deformation using active probes driven by motor proteins
Inoue, D.; Nitta, T.; Kabir, A. M. R.; Sada, K.; Gong, J.P.; Konagaya, A.; Kakugo, A.*
Lab Member
2024年度メンバー
April 22, 2024学部4年生 ・佐野開音 ・末松春樹Contact
〒815-8540 福岡県福岡市南区塩原4-9-1 九州大学大橋キャンパス3号館605号室(+81) 92-553-4431
© 2019